盟友の死を悼むーーー③
*この一連の記事は、前の記事にも書きましたが、佐々木冬彦さんの追悼のため、というよりは、自分自身のために書いています。
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書いているうちに、ようやく気持ちが落ち着いてきた。
ただ、未だ実感はない。
今も書きながら、佐々木さんのブラームスの演奏が脳内再生されてくる。深い悲しみよりは、賛嘆の気持ちと陶酔感にひたる。
でも、ふとした拍子に(だいたい、まったく関係がないとき、例えば立ち寄ったカフェで、あ、コーヒーが美味しいな、と思ったりしたときや、明るい朝日に包まれて、ふと幸福感を感じたその瞬間とか)涙が溢れそうになって困っている。
わたしは大学に入学して、志すともなく雅楽のほうに惹かれ、学部の3年生の頃から少しずつ東京楽所で舞台のお仕事をいただくようになっていった。
卒業後も、当時年に10ぐらい、レコーディングから音楽祭から、銀座雅楽堂での定期公演から、さまざまなお仕事があった。
当時のわたしはコラボのようなものより古典への傾倒が強く、たまに現代作品のようなものの演奏のご依頼を受けても、内容に納得がいかないものはお断りしていた。。。
作曲家の佐々木さんとは、まったく接点がなくなっていた。
ハーピストとして活躍し、福井のほうでハープのための作品の作曲で賞を取られた、という話を風の便りにきいた。
その佐々木さんと再び出会う機会となったのが、「東京の夏音楽祭」の一柳慧先生の作品。
サントリーホールの大ホールでの演奏で、かなりの人数の演奏者が舞台にのる曲だった。
まさか、そんなところでご縁がないと思っていた佐々木さんと接点ができるとは!
リハや本番で佐々木さんと何をお話したか、覚えていない。
大人数が舞台にのるため、双方、それどころではなかった気もする(笑)。
演奏も、この作品のなかで東京楽所は、オーケストラやさまざまな正倉院の復元楽器チーム(このとき、佐々木さんは箜篌)に囲まれながら、管方装束をつけて古典曲をまったく手を加えずに演奏する(確か春鶯囀入破1曲、だったと思う)、というものだった。
本番の日、東京は当時まだ珍しかった、大変なゲリラ豪雨に襲われ、地下鉄の駅の階段を登ろうとしたときに、鉄砲水のようにどっと雨水が流れ込んできたのを覚えている。
銃数年ぶりにお会いしたときに、佐々木さんもこの雨のことは覚えていて、すぐにその話になった。。。
このときの接点があり、また篳篥奏者の中村仁美さんにも曲を提供されたりしていることなどを知り、2009年、柏市の主催・わたしの企画でコンサートをする際に佐々木さんに入っていただく案を思いついた。
このコンサートは、
笙 中村華子 伊藤えり
篳篥 中村仁美
龍笛 太田豊
ピアノ 高橋全
ハープ 佐々木冬彦
という、奇妙な編成だった。映像から全体構成からすべてわたしの発案だったけれど、ピアノとハープはすごく相性がいいように思えた。
実は、当初は佐々木さんではなく、今年の10月、わたしのお初の京都からのライブ配信でご参加いただいた、パーカションの岡部洋一さんにお入りいただく案も考えていた!
それはそれで実現していたら、非常に面白かったと思うけれど、やはりあのとき、わたしが必要としていたのは佐々木さん、だった。
結局、佐々木さんには当日演奏したコラボの曲の大半にお入りいただくこととなり、また楽曲も提供していただいて、コンサートの内容がとても豊かになった。
ミュージシャン、作曲家にはいろいろなタイプの人がいる。
クラシック系の人は、ともすると気難しい人も多い。
でも、佐々木さんには、わたしがまだまだコラボや即興演奏に不慣れだったにも関わらず、どれだけ助けていただいたか、わからない。
演奏の技量だけでなく、敬虔なクリスチャンでもいらした佐々木さんは、人に対する許容度の幅が広い人だった。
佐々木さんの、機嫌がよいときの「ウフフ・・・」という笑い声を鮮明に思い出す。ウフフと笑われて単純なわたしはほっとしていたが、あのウフフにもいろいろな思いがあったのかもしれない。。。
音楽やご自身に対してあれだけ厳しい人だったから、もしかしたらわたしのおっとり刀には、内心イライラもされていたのではないか。
高校時代からの知り合いという気安さから、作品に対しての意見や感想などもずばずばお伝えしていたが、それも意見として、対等に聞いてくださっていた。
仕事を一緒にするたびに、成長させていただいたような気がする。
2008年から2009年はわたしの運命が大きく動いた年。
初のデビューCD「祈りの海へ・・・」の制作、リリースによって、40半ばにしてようやく、コラボというものにもっと真剣に関わろうと思い始めた頃。さらに佐々木さんとのコラボによってわたしの経験値はぐんとあがった。
このコンサートは評判も大変よく、演奏者同士でも、終わったあとは皆で、「またやりましょう!」というお話もしていたのだけれど、この規模、この人数でやらせていただける企画は、その後なかなかわたしのところに舞い込まなかった。。。
(続く)
12月22日
佐々木さんのYouTubeチャンネルをリンクさせていただきます。
わたしもまだ聞いたことがない佐々木さんの作品、佐々木さんが愛されたドイツ・フランス音楽がアップされています。
何より、素晴らしいご自身の演奏と作品。
たくさんの人が目にされ耳にされますように。
末長く、たくさんの人に愛されつづけますように。
https://www.youtube.com/channel/UCQ1vqH2NGcMWREmkpOJi2iw
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