CD「日本古代歌謡の世界」 ライナーノートから(4)
(続き)
とくに、宮中の秘楽として、神楽歌の分野は「神聖にして侵すべからず」とタブー視されていた。この分野も今回、歌曲のみならずその様式までも収録できたことは一大快挙といえる。収録にあたって演奏者は、現代の超一流の技能をもった人のみにしぼった。
そして、音程、音色、音質にとくに気をくばり、その上で古代歌謡独特の無拍節の曲の姿と間を最重要視し、一字一句一音もゆるがせにせず、明確で格調の高い歌を追求した。
−「日本古代歌謡の世界」ライナーノートから 「総論」(多忠麿)
このCDは東京楽所にしては珍しく、演奏者は全員、宮内庁式部職楽部の楽師の先生で固められている。
このCDは多先生の遺作ともいえるCD。
平成4年の12月だったか、翌平成5年の1月だったか、先生は手術を受けられた。
胃がんだった。
療養する間もなく、先生はご公務に復帰され、さらにこのCDの製作に取りかかられた。
多家は元々、御神楽を業とする家。
先生はがんの告知は受けていなかったものの、残された時間が少ないことを本能的に、ご存知だったのだろう。
「おとなしく療養」などという言葉は似合わない先生だった(ただ、そうしてくだされば、どれだけ周りの人間も、気が休まったことだろう!)。
このCDには、特に先生の厳しい面が現れているような気がする。
また、「宮中の秘楽」を収録したCDに民間からの演奏者をひとりもいれなかったことは、「楽家」の人間として生涯を生ききった、先生の強い矜持と誇りを感じる。
また、出演者の楽師の先生方への細やかな気配りと(いかにも忠麿先生らしい)、信頼感も感じられる。
あれだけ、いつも高い境地を目指しておられながら、「人に委ねることができる」人、だった。
「責任は全部、僕がとるから」
が、口癖のような先生だった。
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