お公家さん
学生時代、ベーシックな五常楽の合奏をしていた。
笙の音頭はわたしで、管絃、二太鼓からつけるときに、わずながら、気持ち(・・・でも、本当に、ぎりぎりセーフ、という感じで、気持ち、ですよ・・・)、つけるのが遅かった。
とたんに芝祐靖先生が、
「うーん、えりちゃん、そのつけかたは、ちょっと、しゃれすぎているね~。もういっぺんいってみましょう」
とおっしゃった。
(優しい、柔らかい物言いだな・・・)と、ひそかに感動した。
「遅い!」とか
「もう少し早くつけて!」ではなく、
「しゃれすぎている」・・・。相手を傷つけない言葉。
なんて言葉だろう。
だから今でもはっきり覚えている。
初めて、鶴岡八幡宮の菖蒲祭に加えていただけることになったとき、鉦鼓のお役をいただいた(これも、学生時代)。
右舞はまだまったく習っていず、高麗の曲がとても不安で(笙吹きにとっては、触れる機会がまったくない)、銀座雅楽堂でのリハーサルのときに、自分で打ち物の譜を作り、見ながら打った(・・・リハであっても、暗譜は大原則、である)。鉦鼓は、まったく初めてだったと思う。
えっと、えっと・・・と譜を見ながら打っていると、すかさず多忠麿先生が、ぴしゃりと、でも笑いながら、
「伊藤君!!!きみね~、そんなものを作ってきても、だめですよ、
あそこは風が強いんだから。飛ばされてしまいますよ」
と、おっしゃった。
それにしても、お二人ともなんて優雅なご注意の仕方なんだろう。
こんなことを学生相手にさらっとおっしゃれるなんて。
このころから、「お公家さん」の文化のことをちらっと意識し、感じはじめていた。。。
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