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2010年6月 3日 (木)

巫女さん

「東京のかたは、毎日こんなお菓子を召し上がっているんですか?」

東京から訪問したわたしたちを取り囲んだ、20代の巫女さんたちの顔が、ぱあっと輝いた。

もうだいぶ経つけれど、とある地方の大きなお宮の巫女舞の調査研究のため、音楽の採譜を頼まれた。

飛行機で空港にたどり着く。
お迎えは「巫女長さん」あるいは「親巫女さん」とよばれる、年配の女性。

50代半ば、普通に高校生の息子さんがいる人だった。
しっかりもののお母さん、という雰囲気。

でもとても若々しく、清楚な明るい雰囲気の人。
さすがに、「巫女」の親。
どこかに、さわやかな女学生のような初々しさが漂っている(50代、ですよ!)。

東京では、もうほとんどの神社さんの巫女さんというのは、アルバイト。
普段は巫女さんをおかず、お正月やお宮のお祭りのときだけ、臨時で雇われる。

地方でも似たりよったりになってきているようだ。

ところが、そこのお宮の巫女さんたちは、全員が「専任」だという。
お宮の事務職もこなしながら、お茶お花を習い、巫女舞のための筝を習得し、舞も全員が舞う。

「東京のお菓子」・・・といっても、羽田空港で知人が買った、ごくごく普通のお土産の洋菓子だった。
それなのに、巫女さんたちは、心から感激して、素直に喜んでくれている。
その素直さに、こちらも気持ちが明るくなり、嬉しくなった。

舞のお稽古は真剣そのものだ。
皆、練習のときは浴衣に濃い色の袴姿。
まるで明治時代の女学生のよう。。。


20代後半の人も多かったのに、皆、さらに若く、子供っぽく見える。
必死になって鈴を振り、扇を支える姿が、
かわいらしい。

お稽古が終わったあとは、年配の神職さんの肩を揉んであげている子もいれば、なんと数名で手をつないで大きな輪になり、にこにこしながらフォークダンス(!)をはじめた子達も。

なんで、みんな、こんなに素直でのんびりしているのだろう???

(・・・なんだか、昔の青春映画みたい・・・)
お化粧している子もしていない子も、つるんとした卵のような顔で、表情豊かで、皆きれいだった。

・・・この子達は、どれだけ自分たちがきれいか、気がついていないんだろうなあ。。。

お祭り、いよいよ出番というときは、それこそあっという間に「お姫様」になる。
ここのお宮の装束は、それはそれは見事だった。

古い時代に京都であつらえられたものだそうで、「布」の持つ「迫力」が違った。

厚み、重厚感、そういった物理的なことは元より、なにか、訴えてくるものが、力強い。

織の技量とか、ではなく、、、

昔の、この装束を作ったかたがたの、信仰心だろうか。。。

特に、十二単に近い装束は、圧巻だった。
浮き出るような織から、刺繍から、紐の組み方、絹のつやから。。。
調査研究のためだったので、普通は目にすることができない装束を出してきてくださった。

そのたびに、(えっ?)と、息をのんだ。
こんなにすばらしいものを、拝見させていただけるなんて。。。

(布には、色には、霊力がある)

志村ふくみさんの言葉を、このとき、本当に深く、感じ入った。

いったい、何人の、何世代の巫女さんたちがこの装束を召して、舞を舞い、筝を弾いたのだろう。。。

子供のような顔の巫女さんたちが、装束に袖を通して、舞殿にあがると、霊的になる。
扇や鈴を持って、古い舞を古い音楽とともに舞う。

五節舞こそなかったが、往時がしのばれた。音楽も、繊細で品のよい曲が多かった。
鄙には稀な・・・というけれども・・・

これだけの楽を残せるのは、やはり神社さんが大きかったからだろう。
雅楽を奏する力量がある人を抱える、というのはやはり相当大変なことだから。

わたしも、神道関係の奏楽のお仕事で、神社さんなどでお仕事をするようになり、裏方の巫女さんのお仕事も自然に見るようになった。
お祭り・式典では、巫女さんの仕事は非常に多い。

式次第を暗記するだけではだめで、物を運ぶにしても、ひとつひとつ手の所作、足の運びに丁寧さと緊張が要求される。
指先の表情ひとつに、気持ちが現れる。

祭儀を底辺でささえている巫女さんたち。

日本の、神道文化を陰で支えているのも、やはり巫女さんたち、かもしれない。

わたしは巫女ではないけれども、ときどき、気持ちの上で、とても近しいものを感じ、心のなかでは、ひそかに応援している。

あの、舞のお稽古と装束を拝見させていただいた、秋の1日には、とても忘れがたく、貴重な記憶の1ページとなっている。
のんびりと鄙びた、雅楽調の音楽とともに。

皆様、どうされているのかしら。。。

一時体調を崩し、手術も受けなければならなくなったため、疎遠になってしまっているけれど。。。

また機会があれば、参拝させていただきたい、と心から願っている。


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