抜頭 多忠麿先生の言葉
これはちょっと記憶が不鮮明なのだけれども、印象深かったので、書いておこうと思う。
CDのレコーディングのお仕事を多忠麿先生からいただいた。
スタジオは確か、アバコだったように思う。
ドイツ人の依頼で、ドイツのレーベルから出る、というお話だった。
依頼者がエンジニアだったか、プロデューサーだったか、大学の先生だったか、、、覚えていない。
そして録音後、そのCDは、どうなったのかは、よくわからない。。。
録音中はその依頼者のドイツ人もスタジオにいらしていて、多先生と英語でお話をされていた(あの年齢の人にはめずらしく、多先生は簡単な英語でのやり取りには長けていらした)。
確か平調の調子なども、退吹きで録音した。
抜頭の録音もあった。
録音したものを聴きなおしているとき、忠麿先生が、突然、
...Japanese jealousy is so sad....isn't it? (日本人の嫉妬って、哀しいでしょう?)
とおっしゃった。
(あ、なるほど・・・)と思い、とても心に残っている。
曲の由来などを説明されてのことだったと思う。
抜頭は、唐のお后さまが嫉妬して荒れているさまを表している、という説がある。
曲も、篳篥の旋律、竜笛の旋律、ともに哀調を帯びて哀しい。
激しく重苦しい嫉妬の感情・・・というよりは、やるせなく、淋しい感じ。
雅楽は、宗教儀礼の音楽で、感情の表現とは関係ない・・・と考えているかたも多いようだけれども、「表現」の仕方が違うだけであって、自ずと現れてくるものはある。
たとえば絵にしても、うら淋しい薄野に、月がかかって、、、という情景を描いたら、それは感情の表現だろうか、そうでないのだろうか・・・限定しない表現のほうが、表現そのものが広がっていく、ということは多々ある。
ところで、実は、抜頭の由来はさまざまある。女性の嫉妬・・・という説は比較的新しいのではないか、と思う。舞そのものが非常に激しく、男性的で勇壮であり、面も、女性の面にはとても思えない。
CD「雅楽大系」の解説(田辺尚雄先生)がもっとも詳しく、おもしろい。少しずつ、書き出していこうと思う。
実際の「抜頭」は、こちらの映像と音が秀逸。
迫力と重厚あふれる抜頭。
笙的には、この演奏は、録音も優れていると感じてます。
個人的に、笙の、理想的な音です。
もちろん、舞も演奏そのものも、すばらしいです。
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