多忠麿先生の歌
忠麿先生の歌は、ものすごかった。
あんなふうに自在に歌える人に、わたしは出会ったことがない。
延の曲を延々、管絃吹きのテンポで、20拍くらい、息継ぎなしで歌いきった。
わたしを含め、若い人でもついていくことができなかった。
梁塵秘抄口伝集にもそんな話があったように思う。
鍛錬を積んでいる者は、もう余裕がないかな、というところでもあと一呼吸ぐらいの余裕を見せて、歌いきる、それがよいのだと。
近年、唱歌のCDも出されたが、あれはお若い時代の頃の録音が大半(それでも歌の上手さと迫力は十分に伝わるだろう)。
50代の、先生の円熟した唱歌を20代の頃にたっぷりと聴くことが出来たのは、本当に幸いだったと思う。
多家はもとともと御神楽の家。
忠輝先生もとてもきれいな、いい声をされている。
血筋というものは、やはりある。。。「血」というものを強く感じるのも、ひとえにわたしが雅楽の世界に身を置いて、実際に楽家の先生方と接しているから(ただ、民間から若くして楽師になられ、有能な先生方もたくさんいらっしゃる・・・)。
復刻された「雅楽大系」という4枚組みのCDの、御神楽の録音、「朝倉」の歌が多忠麿先生。
20代後半の頃の録音だと思う。
朝倉は昔の御神楽の次第では、延々と夜通し続いた御神楽の、最後のほう、明け方に歌われていたのではないかと思う。
まさに朝の空気をすーっと連れてくるような素晴らしい歌。
「畏まる(かしこまる)」ということを感じさせる歌。
雅楽と、その伝承に命を賭けた先生だった。
そういった点が、また昨日のドラマの白洲次郎さんと重なってくる。。。
日本の国と憲法を陰で守った人。
やんちゃで気が強く、あまりにも高貴で、でも情の濃かった人。。。
「雅楽の魅力」カテゴリの記事
- 今年は様々な行事が復活するといいですね。(2022.04.15)
- 手移りのタイミング(2020.02.11)
- 国立劇場雅楽公演 雑感(2016.02.29)
- 繰り返し問う、「なぜ?」(2015.12.29)